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最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)1191号 判決 1965年12月21日

上告人

中沢幸平

右訴訟代理人

山本政喜

田井純

藤井彦一郎

被上告人

金子いね

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山本政喜、同田井純、同藤井彦一郎の上告理由について。

論旨は、要するに、原審が、上告人主張の事実はすべて確定判決の既判力に牴触するものであり、たとえ確定判決が第三者を害する意図のもとに当事者間の通謀により裁判所を欺罔して取得されたものであるとしても、これに基づく強制執行に対し請求異議の訴をもつてその執行の不許を求めることは許されない、と判断したのは、法律の解釈を誤り判例に違反するというのである。

しかしながら、確定判決に既判力を認めた法律の趣旨は、判決に接着する事実審の口頭弁論終結時を標準時として訴訟当事者間の権利関係を確定し、それ以前に存した事実を理由として右判決の内容を争うことを許さないこととし、よつて前記確定された権利関係につき法的安定をはかるにあるのであつて、現行民訴法は、右確定判決に重大な瑕疵が存する場合においても、それが同法四二〇条一項に列挙する事項に該当する場合にかぎり、かつ法定の制限のもとに、再審の訴をもつてのみ、右確定判決を取り消すことを許容し、もつて、救済をはかつているにすぎないのである。したがつて、判決が確定した以上、その判決の成立過程における当事者の訴訟活動の背後に所論のような意図目的が存し、あるいは、右判決が、専ら第三者の権利を害することのみを目的として、当事者の通謀による架空の主張により、裁判所を欺罔して取得された等、所論の事実が存する場合においても、当事者の右行為が民法七〇九条の不法行為を構成するかどうかは別論として、確定判決が既判力・執行力を生じないと解すべきものではない。

そして、請求異議の訴は、債務名義に表示された請求権と現在の実体的法律状態との不一致を理由に、当該債務名義のもつ執行力の排除を目的とするものであつて、債務名義が確定判決である場合には、請求権の成立は既判力によつて確定されているのであるから、既判力の標準時以前に遡つてこれを争い、所論のような事実が存することを理由に、請求異議の訴により前記執行力の排除を求めることは許されないと解するのが相当である。もつとも、既判力の標準時以後に生じた事情変更により、判決において確定された請求権の行使が権利濫用に該当するにいたる場合がありうるものとし、かかる場合には当該請求権の行使が制限される結果、請求異議の訴により、右確定判決の執行力を排除できると解することが許されるか否かについては、見解の分れるところであろう。しかしながら、上告人が原審において主張するところは、要するに、「本件建物敷地の賃貸人であつた被上告人は、敷地賃借人であり地上建物所有者・抵当権設定者たる訴外白沢藤男と通謀し、仮装的に訴外白沢の右敷地賃借権を消滅せしめ、地上建物所有権が右抵当権実行により競落人たる第三者に帰属しても、その利用を不可能ならしめることによつて、右建物の競落を事実上妨害しようと企図し、所論の経緯および方法により訴外白沢に対する本件建物収去土地明渡の確定判決を取得し、その後において右確定判決の存在を知らずに地上建物を競落した上告人に対し、本件強制執行におよんだ。」というのであつて、上告人が権利濫用として主張する事実のうち、前記確定判決に接着する口頭弁論終結後に生じた事情変更は、単に右判決の存在を知らずに本件建物を競落しその収去を強制されれば損害を蒙るというにすぎず、かかる事情のみによつては前記確定された本件建物収去土地明渡請求権の行使が権利濫用に該当するにいたると解することはできないし、その余の上告人主張事実はいずれも前記口頭弁論終結以前に生じた事由であつて、前記理由により請求異議理由として主張することは許されないところである。したがつて、仮に、口頭弁論終結後に生じた事情変更により、判決により確定された請求権の行使が制約をうけ、請求異議の訴を提起できる場合がありうると解すべきものとしても、本件において上告人が主張する事実は、前記理由により請求異議の理由に該当しないものと解するのが相当である。

よつて、右と同趣旨の見解のもとに、上告人主張の事実はいずれも請求異議理由に該当しないとした原審の判断は正当である。所論は独自の見解に基づき原判決を非難するものであつて、原判決に所論の違法は存しない。なお、所論指摘の判例は、いずれも特異な事案について示された見解であつて、本件と事案を異にし本件に適切でない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(五鬼上堅磐 横田正俊 柏原語六 田中二郎 下村三郎)

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